乃木坂浪漫
礼儀正しくスタッフにお辞儀をするメンバー達を横目に俺は家路に着いた
一生で一回しか目にすることのない繁華街の人々はいつか確実に
人生の終着点が訪れることを理解していないように見えた
ウメザワと呼ばれている長身のメンバーがリーダーなのだろうか?
ふと思ったがそんなことはどうでも良い
人間の脳は興味がないことにリソースを割かないように出来ている
街の空気は今年も早い夏の到来を暗示していた
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ウメザワと呼ばれるメンバーは言った
「女子脳は縦社会に向いてないからかな」
「そうなのよRさん、もう私キャプテンやりたくない…!」
唐突にカミングアウトされて困っている俺に向けてウメザワは言った
「あっ、ごめんなさい!こんなこと言うつもりは無かったんです」
「別に良いよ、人間誰でもストレスからは逃れられない」
アイドルの苦悩なんぞ全く理解の範疇外だったが一般論を言っただけだった
単なる出入りの業者ということだ
家から近いという理由だけで単に暇潰しの為の不定期職を
選んだだけで給与なんぞどうでも良かった
マンションの自室に帰りウイスキーを飲みながらTVを着けると
何処かのアイドルグループが映っていた
チャンネルを変えようとした瞬間にウメザワと呼ばれる
例の長身の娘が前列で披露している姿があった
ある日楽屋に食事を差し入れた時にツツイはこう言った
「Rさんですか?」
「はい、そうです」
何故ツツイと呼ばれる娘が俺を知っているのか不思議に
思いながらも返事をした
ツツイは「収録が20時に終わるので待っていて貰えますか?」
逡巡しながらも「わかりました、S出口にいます」
と答えた
「ごめんなさーい!ちょっと収録が押しちゃいました」
「良いですよ、時間は有り余ってるんで」
「Rさんって何をしてる人なんですか?」
ツツイは言った
「見ての通りケータリングの食事を届けているバイトですよ」
「ふーん、そうかなぁ…他に何かしてるんじゃないですか?」
「何もしてないですよ」
「…この前ウメザワさんと親密に話されてましたよね?」
「親密かどうか解らないけど」(ウメザワってあの長身の娘か)
「へー、そうですか!Rさんの彼女かと思いましたよ」
ツツイはこう言った
「私達人気アイドルグループなんです」
「知ってますよ」
「でも私のこと知らないじゃないですか」
かなり面倒臭い展開になりそうだったが我慢して俺はこう言った
「個人のことは知らないのでごめんね」
ツツイはこう言った
「やっぱりRさんって正直な人なんですね」
「あーん、もうアイドル辞めたい!」
「アイドルも大変なんだねぇ…」
話を合せようとした瞬間にツツイが「Rさん!私が誰か知ってるの?」
俺は「ちょっとわからない…」と答えた
ツツイは微笑んでいたが乃木坂を歩いている人間の目線が
明らかにツツイに向いていることを俺は気付いていた
「普通に勉強して高校から大学に進学してれば良かったかな?
でも学校の勉強に何の価値があるのか理解出来なくて」
「学校の勉強自体に大した意味は無いよ?凡人の篩い分けの
尺度に学歴が適用されてるだけさ」
「でも論理的な思考能力はデスクワーク職では有利になるかな」
ツツイはこう言った
「ごめんなさい、難しくてわかりません」
「頭を使う訓練をしてきた人間は最大公約数の社会では役に立つってことさ」
「でも尺度が適用されない少数派の人間にはこんな尺度はまるで役に立たない」
「その他大勢の尺度に収まらない人間だけが唯一無二の価値を生み出すんだ」
ツツイは黙って聞いていたがこう言った
「Rさんって頭が良いですよね」
「自分のことを普通と言う人間は信用してはいけないって話を先輩のマイさんから聞いたわよ」
ツツイは少し微笑みながら言った
「Rさんって謎の人よね、週に1~2回見掛けるけど普段何してるの?」
俺は自分のことを話すことが好きではないが何故かツツイには少し話す気になった
「資産があるからあんまり働きたくないんだよ」
「労働で得られる収入なんてたかが知れてるからね」
「特に欲しい物もないけどね、物欲の変わりに時間を買えるならいくらでも出すけど」
「これでウメザワさんみたいに大人を演出しよう」
ツツイは胸元から黒色のサングラスを取り出すと掛けた
サイズが少し大きいせいか子供が眼鏡を掛けている感じがした
「どう?似合う?Rさん」
俺は少し考えてから言った
「・・ああ似合うよ」
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「そんなことないよ」
間髪入れず俺は答えた
「こう見えてももう成人なんですからね!」
「え?」
「え?じゃありません!お酒も飲めるんですからね!」
まさかツツイが成人してるとは思わなかった
見た感じ明らかに成人なのはウメザワと呼ばれてる
メンバーだけだと思っていたからだった
引用元:https://talk.jp/boards/nogizaka/1758918184











