乃木坂浪漫 ~清濁の色~
心の美しい乃木坂を愛する全ての人に贈る珠玉のストーリー
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「お疲れさまでした」
礼儀正しくスタッフにお辞儀をするメンバー達を横目に僕は家路に着いた
一生で一回しか目にすることのない繁華街の人々はいつか確実に
人生の終着点が訪れることを理解していないように見えた
ウメザワと呼ばれている長身のメンバーがリーダーなのだろうか?
ふと思ったがそんなことはどうでも良い
人間の脳は興味がないことにはリソースを割かないように出来ている
街の空気は今年も早い夏の到来を暗示していた
ある日ウメザワと呼ばれるメンバーが呟いた
「女子の集団をまとめるのは大変なのよ…」
唐突にカミングアウトされて困っている僕に向けてウメザワは言った
「女子脳は縦社会に向いてないからかな」
「あっ、ごめんなさい!こんなこと言うつもりは無かったんです」
「別に良いよ、人間誰でもストレスからは逃れられない」
アイドルの苦悩なんぞ全く理解の範疇外だったが一般論を言っただけだった
前も見た
半年振りとかじゃないか
アイドルの楽屋に食事を届けることが僕の仕事だ
単なる出入りの業者ということだ
家から近いという理由だけで単に暇潰しの為の不定期職を
選んだだけで給与なんぞどうでも良かった
総菜を買込み、マンションの自室に帰りウイスキーを
飲みながらTVを着けると何処かのアイドルグループが映っていた
チャンネルを変えようとした瞬間にウメザワと呼ばれる
例の長身の娘が前列で披露している姿があった
その娘はツツイと呼ばれていた
ある日楽屋に食事を差し入れた時にツツイはこう言った
「Rさんですか?」
「はい、そうです」
何故ツツイと呼ばれる娘が僕を知っているのか不思議に
思いながらも返事をした
ツツイは「収録が20時に終わるので待っていて貰えますか?」
逡巡しながらも「わかりました、S出口にいます」
と僕は答えた
20時過ぎにツツイは裏口に現れた
「ごめんなさーい!ちょっと収録が押しちゃいました」
「良いですよ、時間は有り余ってるんで」
「Rさんって何をしてる人なんですか?」
ツツイは言った
「見ての通りケータリングの食事を届けているアルバイトですよ」
「ふーん、そうかなぁ…他に何かしてるんじゃないですか?」
「何もしてないですよ」
「…この前ウメザワさんと親密に話されてましたよね?」
(ウメザワってあの長身の娘か)
そう思いながら「親密かどうか解らないけど」と答えた
「へー、そうですかぁ…Rさんの彼女かと思いましたよ」
「アイドルは恋愛禁止ですからね」
そんなルールがあること自体知りもしなかったがそんなものらしい
どのように答えて良いか解らず黙っていた僕に対して
歩きながらツツイはこう言った
「私達アイドルグループなんですよ」
「それは知ってますよ」
「でも私のこと知らないですよね」
かなり面倒臭い展開になりそうだったが我慢して僕はこう言った
「個人のことは知らないのでごめんね」
ツツイは言った
「Rさんって正直な人なんですね」
「一緒に帰りませんか?Y町方面なんですけど」
「良いですよ」
僕は言った
文壇関係?
ツツイは言った
「あーん、もうアイドル辞めたい!」
「普通に勉強して高校から大学に進学してれば良かったかな?
でも学校の勉強に何の価値があるのか理解出来なくて」
「学校の勉強自体に大した意味は無いよ?凡人の篩い分けの
尺度に学歴が適用されてるだけさ」
「でも論理的な思考能力はデスクワーク職では有利になるかな」
傾斜のある乃木坂を歩きながらツツイはこう言った
「ごめんなさい、難しくてわかりません」
「頭を使う訓練をしてきた人間は最大公約数の社会では役に立つってことさ」
「でも尺度が適用されない少数派の人間にはこんな尺度はまるで役に立たない」
「その他大勢の尺度に収まらない人間だけが唯一無二の価値を生み出すんだ」
ツツイは黙って聞いていたがこう言った
「Rさんって頭が良いですよね」
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ツツイはこう聞いた
「何か役に立つ科目ってあるのかしら」
「未来をより良いものにする為には過去の人間が何をしてきたのか知る必要がある」
「文明は進化しても人間自体は進化してないからさ」
「歴史は繰り返すって聞いたことあるけどそのことかしら」
ツツイの本質を捉える聡明さに驚きつつ僕は答えた
「そうだね、論理的な思考力に相関はあまりないけど」
「Rさんって自分のことどういう人間だと思ってる?」
ツツイの唐突な質問にこう答えた
「普通だと思ってるけど」
>>12
「自分のことを普通と言う人間は信用してはいけないって
話を卒業した先輩のマイさんから聞いたわよ」
ツツイは少し微笑みながら言った
「よし、これでウメザワさんみたいに大人を演出しよう」
ツツイは胸元から黒色のサングラスを取り出すと掛けた
サイズが少し大きいせいか子供が眼鏡を掛けている感じがした
「どう?似合う?Rさん」
僕は少し考えてから言った
「…ああ似合うよ」
「あっ、今ちょっと笑いそうになったでしょ?」
「そんなことないよ」
図星を突かれて間髪入れず僕は答えた
「こう見えても成人なんですからね!」
「え?」
「え?じゃありません!お酒も飲めるんですからね!」
まさかツツイが成人してるとは思わなかった
見た感じ明らかに成人なのはウメザワと呼ばれてる
メンバーだけだと思っていたからだった
僕は自分に向けたものではなくツツイに向いた視線を
通行人達から感じていた
「明日オフなんだよね、私」
「へー、じゃあ家でゆっくり休み…」
「あっ、ここに未成年者誘拐犯がいます!と叫んじゃおうかな?」
「さっき成人だって言って…」
「うるさいっ!」
結局僕は言われるがまま青山にあるフレンチ料理店へと誘導された
店内は中規模で薄暗く丸テーブルが10個ほどあるレイアウトだった
客は3組ほど居たが明らかに一般層とは違う人種であることが即座に理解できた
窓際の席へ誘導されたがここでもツツイに集中する視線を感じていた
Englishman In New Yorkのストリングスが流れる店内で
ツツイは店員に言った
「シャルドネの2020をお願いします、前菜からお任せで」
「Rさんは何を飲むの?」
「ピノノアールにしようかな?ビンテージはお任せで」
普段ワインは飲まないが渋みのあるピノノアールの複雑な地層が
生み出した芳醇な香りが好きだった
窓際の月明かりがツツイを照らしていた
目線の先には完璧な造形美が演出されたツツイが居た
思わず魅入ってしまった僕の視線に気付いたのか
サングラスを外しながらツツイは言った
「どうしたの?Rさん」
「何でもないよ」
と僕は言った
「どうしたの?Rさん黙っちゃって」
「…何でもないよ」
これほどまでに美しいツツイを垣間見て言葉を失ってしまった
「ふ~ん」
ツツイは前菜のベジタブルを食べながら
イヤリングを揺らして言った
「Rさん」
「は、はい!」
夢から連れ戻された感覚で咄嗟に反応したが心はここにあらずだった
「この曲知ってる、良いメロディーよね…ミリネが好きなやつ」
オネスティに耳を傾けながらツツイは言った
「皆が誠実であれば良いな」
「Rさんは誠実なの?」
「誠実でありたいとは思ってるけどね」
ツツイは日々のアイドル活動をメインに
年頃の女子特有の内容の話をした
Killing Me Softly With His Songをバックミュージックに
黙って相槌を打つだけの僕にツツイは言った
「Rさんって聞き上手よね」
「聞いてるだけだよ」
「それが良いのよ」
「Rさんって自分のこと話さないわよね」
「話す価値のある人生でも無いからね」
「話したい誰かがいるって良いことなのよ」
ツツイはパスタを食べつつ笑いながら言った
この流れてる不思議な曲って知ってる?
「ああ、ビートルズのノルウェーの森って曲だよ」
ビートルズは数多の卓越した楽曲を後世に残したが
個人的にはレノンの最高傑作だと思っていた
「この曲って表現出来ない複雑な感情にさせてくれるわね」
ツツイは良質なアンテナを持っていると僕は感じていた
会計はツツイが席を立ってる間に済ませた
ツツイは「私が誘ったんだから私に払わせてください」
と言ったが僕は「次回高く付いたら少し払ってね」と遮った
青山の路地を抜け山の手に向けて僕達は歩いてた
グラスで5杯は飲んでいたツツイは足元がフラ付いていた
「ワインは後から来るけど大丈夫か?」
「タイジョウブ!子供扱いしないでよね!」
酔いが回っているのは明らかだった
(やれやれ…これだから困る)
僕は内心こう思っていた
僕は道端でこのまま寝そうなツツイを背負って
仕方なく山の手に向かって歩いていた
(なんでこんなことしなくちゃならないんだ…)
誘いを断って帰れば良かったと心底思っていた
すると通りすがりの2人組の女子から声が聞こえた
「あれ?アヤメじゃない?」
「アヤメはんですよ、どうされました?」
1人は例の長身の娘ウメザワと呼ばれている女子
もう一人はウメザワよりは年下であろう関西弁の娘だ
あまり良い状況でないことは明白だった
引用元:https://talk.jp/boards/nogizaka/1769282746









